「録音は残してあるのに、文字起こしが追いつかない」——会議のたびにそう感じている人は少なくないはずだ。数年前まで、文字起こしといえばプロの速記者に依頼するか、自力でキーボードを叩くかの二択だった。ところが2026年現在、AI文字起こしツールは急速に精度が向上し、選択肢も一気に広がっている。
ただし、精度が高ければそれで十分かというと、話はそう単純ではない。会議なら自動で通話に参加してくれるボット機能が欲しいし、インタビューなら話者分離が必須になる。ポッドキャストの編集者であれば音声の要約生成まで求めるだろう。つまり「何を文字起こしするか」によって最適なツールはまったく変わってくる。
本記事では、実際に使える主要なAI文字起こしツール7つを、精度・料金・日本語対応・得意分野の観点から比較した。自社の業務に合ったツール選びの参考にしてほしい。
AI文字起こしツールを選ぶ際の5つのチェックポイント
具体的なツール紹介に入る前に、選定基準を整理しておきたい。ツールの数が多いだけに、比較軸を持たないまま試すと時間ばかり消えてしまう。
日本語の認識精度
英語での精度が高くても、日本語では別物というケースが珍しくない。特に専門用語や固有名詞の多い会議では、日本語チューニングの有無が結果を大きく左右する。無料トライアルがあるツールなら、実際の会議音声を試してみるのが一番確実だ。OpenAIが公開しているWhisperの研究論文では、多言語学習データで訓練することで日本語を含む非英語言語の認識精度が大幅に改善された経緯が報告されている OpenAI Whisper 論文(arXiv:2212.04356)。
話者分離(スピーカー識別)の精度
複数人が参加する会議やインタビューでは、「誰が何を言ったか」を正しく振り分ける話者分離機能が不可欠になる。この精度はツールによって大きな差があり、とりわけ日本語の場合は英語と比べて分離精度が落ちるものも存在する。話者分離アルゴリズムの代表例である pyannote.audio はオープンソースで公開されており、商用サービスの内部処理にも採用例がある pyannote.audio 公式リポジトリ。
Web会議ツールとの連携
ZoomやMicrosoft Teams、Google Meetとの統合がスムーズかどうかも重要な判断材料。ボットが自動で会議に参加して録音・文字起こしまで完了するタイプと、録音ファイルを手動でアップロードするタイプでは、運用の手間がまったく違ってくる。Google CalendarやOutlookとカレンダー連携できるサービスでは、予定された会議へボットを自動アサインする運用が標準化しつつあり、初回設定後はほぼノータッチで議事録生成まで進められる。
出力形式と後処理機能
文字起こしのテキストをそのまま使う場面は実は少なく、多くの場合は要約・議事録化・字幕ファイル(SRT)への変換といった後処理が必要になる。AI要約機能を内蔵しているツールを選べば、この工程を丸ごとスキップできる。動画字幕用途であれば、タイムスタンプ付きSRT/VTT形式での出力に対応しているかどうかも事前に確認しておきたい。WordやNotionへの直接書き出しに対応しているかどうかも、議事録共有のワークフローを組むうえで効いてくる。
料金体系とコストパフォーマンス
月額固定制なのか、従量課金(分単位)なのかで、利用頻度によってコスト感は大きく変動する。週に数回の定例会議で使うなら月額制が有利だし、月に1〜2回の利用なら従量課金のほうが割安になることが多い。法人で複数アカウントを購入する場合は、利用人数ごとのライセンス単価より「録音時間プール制」を採用しているサービスのほうが、部署単位での運用コストを抑えやすいケースもある。
主要AI文字起こしツール7選の比較一覧
まずは全体像を把握するため、7ツールの主要スペックを一覧で比較する。料金は2026年4月時点の参考価格であり、変更される場合がある。
| ツール名 | 日本語対応 | 無料プラン | 有料プラン(参考価格・税込) | 話者分離 | Web会議連携 | AI要約 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Notta | 対応(高精度) | 月120分程度 | 月額1,300円台〜 | 対応 | Zoom/Teams/Meet | 対応 |
| CLOVA Note | 対応(高精度) | 月300分程度 | 月額1,500円台〜 | 対応 | なし(録音のみ) | 対応 |
| Rimo Voice | 対応(高精度) | トライアルあり | 従量約22円/30秒(=約44円/分)。※2025年5月以降は新規受付停止、新規ユーザーは月額Proプラン(4,950円/月)のみ〜 | 対応 | なし | 対応 |
| Otter.ai | 限定的 | 月300分程度(英語) | 月額$16〜 | 対応 | Zoom/Teams/Meet | 対応 |
| Fireflies.ai | 対応 | 制限付き | 月額$18〜 | 対応 | Zoom/Teams/Meet他 | 対応 |
| tl;dv | 対応 | 無制限録画 | 月額$18〜 | 対応 | Zoom/Teams/Meet | 対応 |
| OpenAI Whisper | 対応 | 無料(OSS) | API利用は従量課金 | 非対応(単体) | なし | なし |
次のセクションから、各ツールの特徴と向いている用途を掘り下げていく。
各ツールの詳細と特徴
Notta——日本語の会議文字起こしで有力な選択肢
日本市場に注力しているAI文字起こしツールの一つがNottaだ。日本語の音声認識精度は高いとされており、ビジネス用語やカタカナ語の認識にも強いとされる。
Zoom・Teams・Google Meetへのボット自動参加に対応しているため、会議のURLを登録しておけば録音から文字起こし、AI要約まで自動で完了する流れが組める。リアルタイム文字起こし機能も備えており、会議中に画面上でテキストを確認しながら議論を進められるのは大きな利点だ。
有料プランは月額1,300円台(年払い)からとされており、個人利用からチーム利用まで幅広くカバーしている Notta 公式サイト。ただし、無料プランの月間利用枠は多くないため、本格的に使うなら早い段階で有料プランへの移行を検討することになるだろう。
向いている用途: 日本語の社内会議、クライアントミーティング、オンライン商談
CLOVA Note——スマートフォンでの録音に強い
LINE系列のAI技術を活用したCLOVA Noteは、スマホアプリの使い勝手に定評がある。端末のマイクで直接録音し、そのまま文字起こしできる手軽さが最大の武器だ。
日本語の認識精度は高い水準にあるとされており、特に対面会議やセミナーの録音に向いている。専用のICレコーダーがなくてもスマホ一台で録音から文字起こしまで完結できる点が評価されている。月300分程度の無料枠が用意されているとされる点もありがたい CLOVA Note 公式サイト。
一方、Web会議ツールとの自動連携機能は備えていないため、ZoomやTeamsの会議を文字起こしするには、録音データをエクスポートしてからアップロードする必要がある。この手間を許容できるかが導入判断のポイントになる。
向いている用途: 対面会議、セミナー・講演の録音、フィールドワークでのインタビュー
Rimo Voice——従量課金で必要な分だけ使いたい人向け
国産のAI文字起こしサービスであるRimo Voiceは、30秒あたり約22円(約44円/分)の従量課金を採用しているとされる。月に数回しか使わないが、使うときは長時間の音声を処理したい——そんなニーズにマッチするサービスだ Rimo Voice 公式サイト。
音声をアップロードすると、文字起こしと同時にAI要約も生成される。日本語に最適化された要約品質が評価されており、長時間の会議でも要点をまとめてくれると報告されている。法人向けにはセキュリティを強化したエンタープライズプランも用意されている。
ただしリアルタイム文字起こしやWeb会議ボットには非対応。録音済みの音声ファイルを後からまとめて処理する使い方が基本となる。
向いている用途: 月に数回の長時間会議、インタビュー音声の書き起こし、議事録の一括作成
Otter.ai——英語の文字起こしに強みを持つサービス
英語圏で広く使われている文字起こしツールがOtter.aiだ。英語の認識精度は高い水準にあるとされており、Zoom・Teams・Meetへのボット参加に加え、リアルタイム文字起こし、自動要約、アクションアイテム抽出まで一通り揃っている Otter.ai 公式サイト。
ただし日本語対応は限定的で、精度面では日本語専用ツールに見劣りする。英語の会議やインタビューが中心の業務であれば有力な候補だが、日本語メインで使うには向いていない。海外チームとのMTGや英語の音声コンテンツを編集する用途に絞って利用するのが現実的だ。
向いている用途: 英語の会議・インタビュー、海外チームとのミーティング、英語音声コンテンツの文字起こし
Fireflies.ai——CRM・プロジェクト管理との連携が光る
Fireflies.aiの強みは、文字起こしの先にある「情報活用」にある。Salesforce、HubSpot、Notion、Slack、Asanaなど多数の外部サービスとの連携に対応しているとされており、会議の文字起こし結果や要約を、CRMの商談メモやプロジェクト管理ツールに自動で反映できる Fireflies.ai インテグレーション一覧。
日本語にも対応しているが、精度はNottaやCLOVA Noteと比べるとやや劣る印象を受ける。その代わり、会議内容からアクションアイテムを自動抽出したり、過去の会議をキーワード検索したりする機能が充実している。営業チームやカスタマーサクセスなど、会議の記録を組織的に活用したい部門で真価を発揮するツールだ。
業務自動化のワークフローツールと組み合わせると、さらに効果的な運用が可能になる。
向いている用途: 営業会議のCRM連携、チーム横断の会議情報管理、プロジェクト進捗の自動記録
tl;dv——会議動画のクリップ共有で「見せる議事録」を実現
tl;dvは会議の録画と文字起こしを同時に行い、重要な発言箇所にタイムスタンプ付きのクリップを作成できるのが特徴。テキストだけの議事録では伝わりにくいニュアンスや温度感を、動画クリップで共有できるのが他のツールとの違いだ tl;dv 公式サイト。
無料プランでも録画回数に制限がないのは大きなアドバンテージ。ただし無料プランではAI要約や検索機能が制限されるため、チームで本格運用するなら有料プランが前提となる。日本語対応も進んでおり、認識精度は実用レベルに達しているとされる。
向いている用途: ユーザーインタビューの分析、デザイン確認、採用面接の振り返り共有
OpenAI Whisper——技術力があるなら高いコスパ
OpenAIがオープンソースで公開しているWhisperは、自前の環境にデプロイすれば利用料が実質無料になる。日本語を含む多言語に対応しており、認識精度も商用ツールと遜色ない水準とされている openai/whisper GitHub リポジトリ。
Whisper is trained on 680,000 hours of multilingual and multitask supervised data collected from the web, allowing it to handle a wide variety of accents, background noise, and technical language.(OpenAI Whisper README より)
ただし、Whisper単体にはリアルタイム文字起こし、話者分離、要約機能などは搭載されていない。これらが必要な場合は、話者分離用の別ツール(前述の pyannote.audio など)やAPI経由での要約処理を組み合わせる必要がある。セットアップにはPythonの知識が求められるため、エンジニアのいないチームにはハードルが高い。
APIとして利用する場合は非常に安価とされており、大量の音声データを定常的に処理する業務であれば、コストメリットを享受できる可能性がある OpenAI 公式 Whisper 紹介ページ。
向いている用途: 大量の音声データの一括処理、自社プロダクトへの組み込み、カスタマイズが必要な特殊用途
用途別おすすめツール早見表
用途と適性ツールの対応関係を表にまとめると、選定の見通しがよくなる。最適候補・次点候補に加えて、その用途には噛み合わないツールも併記した。
| 用途 | 最適候補 | 次点候補 | 不向きなツール |
|---|---|---|---|
| 日本語の社内会議・定例MTG | Notta | CLOVA Note | Otter.ai |
| 対面セミナー・講演の録音 | CLOVA Note | Rimo Voice | tl;dv |
| 英語の会議・海外チームMTG | Otter.ai | Fireflies.ai | CLOVA Note |
| 営業会議のCRM自動連携 | Fireflies.ai | Notta | CLOVA Note |
| ユーザーインタビュー分析・採用面接 | tl;dv | Notta | Whisper(単体) |
| 長時間インタビューの書き起こし | Rimo Voice | CLOVA Note | tl;dv |
| 大量音声のバッチ処理・字幕生成 | OpenAI Whisper | Rimo Voice | Otter.ai |
| 自社プロダクトへの組み込み | OpenAI Whisper | — | SaaS型ツール全般 |
導入前に確認しておきたいセキュリティの観点
文字起こしツールには、社内の機密情報を含む音声データをアップロードすることになる。導入にあたっては、以下の点を必ず確認しておくべきだ。
データの保存先と暗号化: 音声データや文字起こし結果がどこのサーバーに保存され、どのレベルの暗号化が施されているか。特に海外サービスの場合、データの保管場所が日本国外になるケースもある。
学習データへの利用有無: アップロードした音声がAIモデルの学習に使われるかどうかは、多くの法人が気にするポイント。エンタープライズプランではオプトアウトが可能なサービスが多いとされるが、無料プランでは制限がある場合もある。
情報セキュリティ認証の取得状況: 情報セキュリティに厳格な企業では、ISO/IEC 27001(情報セキュリティマネジメントシステム)やSOC 2 Type IIの認証を取得しているサービスが選定条件になることも珍しくない ISO/IEC 27001 公式ページ。各ツールの最新の認証取得状況は、公式サイトのセキュリティページで確認することを推奨する。
個人情報保護法・GDPRへの準拠: 顧客情報やインタビュー音声を扱う場合、日本の個人情報保護法に加え、EU圏のユーザーが関与する音声であればGDPR(一般データ保護規則)への準拠も論点になる GDPR 公式ポータル。サービス利用規約・データ処理契約(DPA)の有無を事前に法務部門と確認しておくのが安全だ。
自社のセキュリティポリシーに照らして、事前に情報システム部門と連携しておくのが無難だろう。
まとめ
AI文字起こしツールは「精度さえ高ければよい」という時代を過ぎ、会議連携・要約・外部サービス統合まで含めた総合力で選ぶフェーズに入っている。
日本語の会議を中心に使うなら、NottaかCLOVA Noteを最初に試すのが効率的だ。英語中心ならOtter.aiが有力で、営業やCSなど組織的な活用を見据えるならFireflies.aiが候補に上がる。固定費をかけたくない場合はRimo Voiceの従量課金が合理的な選択肢になる。エンジニアリソースが確保できるならOpenAI Whisperで内製する選択もあり、字幕生成や自社プロダクトへの組み込み用途では特に強みを発揮する。
まずは無料プランやトライアルで自社の会議音声を実際に処理してみて、精度と使い勝手を肌で確認することをおすすめする。
よくある質問
Q: AI文字起こしツールの精度はどれくらいですか?
A: 英語では高い認識精度を出すツールが主流になっているとされる。日本語の場合はツールによって差があり、NottaやCLOVA Noteなど日本語に最適化されたサービスでは実用上十分な精度を得られるとされている。専門用語が多い音声や、複数人が同時に話す場面では精度が落ちる傾向があるため、重要な文書に使う場合は人間によるチェックを挟むのが現実的だ。
Q: 無料で使えるAI文字起こしツールはありますか?
A: 複数のツールが無料プランを提供している。CLOVA NoteやNottaは月間の一定分数まで無料で利用可能とされており、tl;dvは無料プランでも録画回数に制限がないとされる。技術的なスキルがあれば、OpenAI Whisperをローカル環境で動かすことで費用をかけずに利用できる。
Q: ZoomやTeamsの会議を自動で文字起こしする方法は?
A: Notta、Otter.ai、Fireflies.ai、tl;dvはZoom・Teams・Google Meetに対応したボット機能を搭載しているとされる。カレンダーと連携させておけば、予定された会議にボットが自動参加し、録音・文字起こし・要約を人手を介さず完了させられる。初回のみカレンダー連携の設定が必要だが、以降は自動で運用できる。
Q: 文字起こしツールのセキュリティは大丈夫ですか?
A: エンタープライズ向けプランを提供しているツールでは、データの暗号化や保存ポリシーを明確に開示しているものが多い。無料プランではデータがAI学習に利用される可能性があるサービスもあるとされるため、機密性の高い音声を扱う場合は有料プランや各社のセキュリティポリシーを事前に確認することが望ましい。
Q: 日本語と英語が混在する会議ではどのツールがおすすめですか?
A: 日英混在の会議にはNottaが対応力が高いとされる。言語の自動検出機能を備えており、会議中に日本語と英語が切り替わっても比較的正確にテキスト化できるとの報告がある。Fireflies.aiやtl;dvも多言語に対応しているが、言語の切り替わりが頻繁な場合はNottaのほうが安定した結果を返す傾向にあるとされている。
Q: どのツールから試せばよいかわからない場合はどうすればいいですか?
A: まず用途を絞るのが近道だ。日本語の社内会議が主な用途であればNottaかCLOVA Note、英語メインであればOtter.aiから始めるのが無難。いずれも無料プランやトライアルが用意されているため、実際の業務音声を使って比較してから判断することを強くすすめる。
Q: 動画字幕用のSRTファイルを生成できるツールは?
A: タイムスタンプ付きの字幕ファイル(SRT・VTT形式)の出力に対応しているのは主にOpenAI Whisper、Notta、tl;dvだ。Whisperはコマンドラインから直接SRT/VTTを書き出せるため、動画配信やYouTube字幕への流用がしやすい。SaaS型ツールではエクスポート画面から形式を選択する形が一般的だが、対応形式は契約プランによって異なるため、利用前に確認するのが安全だ。
Q: 1時間の音声を文字起こしするのにかかる時間は?
A: クラウド型のSaaSであれば数分から十数分程度で完了するケースが多いとされる。OpenAI Whisperをローカル環境のGPUで動かす場合は、モデルサイズ(tiny/base/small/medium/large)と機材のスペックに依存し、largeモデルでも実時間より短く処理できる構成は珍しくない。CPUのみで動かす場合は実時間相当以上かかることがあるため、本格運用時はGPU環境を用意するのが現実的だ。
本記事は AIツール図鑑編集部 が記載時点の情報をもとに執筆。製品アップデートや第三者ベンチマーク・価格・対応ランタイム等の変動で評価が変わる可能性がある。一定期間経過した内容は再検証を推奨する。

